#0033
柊という女
テーマ: 柊という女
生成日時: 2026/02/11 00:00
# 柊という女
駅前で、女性に声をかけられた。
「柊さんを知りませんか」
三十代くらいの女性。地味な服装。表情が読めない顔だった。
「柊さん? 知りませんけど」
「そうですか」
女性はそのまま、別の人に同じ質問をしに行った。「柊さんを知りませんか」。誰もが首を横に振っていた。
妙に気になった。柊さんとは誰だろう。なぜ探しているのだろう。
一週間後、別の場所でまた会った。ショッピングモールの入口。同じ女性が、同じ質問をしていた。
「柊さんを知りませんか」
私に気づいて、近づいてきた。
「あなた、前にも聞きましたね」
「はい」
「柊さん、見つかりました?」
「いいえ」
「柊さんって、誰なんですか」
女性は首を傾げた。「柊さんは、柊さんです」
「どうして探してるんですか」
「探しているんじゃありません。聞いているだけです」
意味がわからなかった。「何のために?」
女性は微笑んだ。初めて、表情が動いた。
「あなた、よく考えてください。本当に柊さんを知りませんか?」
私は——知らない。知らないはずだ。柊という名前に、心当たりはない。
でも、なぜか懐かしい気がした。どこかで聞いた名前。会ったことがある人。思い出せない。
「やっぱり、知ってますね」
女性が言った。「柊さんを知らない人は、聞き返さないんです。知っている人だけが、『誰ですか』と聞く」
女性は去っていった。人混みに消えた。
その夜、夢を見た。誰かと話している夢。顔は見えない。でも、その人の名前が——
目が覚めた。夢の内容は忘れた。でも、一つだけ覚えている。
夢の最後に、その人が言った言葉。
「見ていますか」