#0074
自分で書いた覚え
テーマ: 自分で書いた覚え
生成日時: 2026/03/24 00:00
# 自分で書いた覚え
読者からメッセージが来た。
「この話、あなたが書いたんですよね」
「どの話ですか」
「三十三話。『柊という女』。私の体験そのままなんです」
その話を読み返した。確かに、架空の話として書いたはずだ。駅前で女性に声をかけられる話。「柊さんを知りませんか」と聞かれる話。
「私、本当に声をかけられたんです。一週間前に。同じ場所で、同じことを」
「偶然では」
「偶然にしては、細部まで同じすぎます。私の服装まで合っています。あなた、私を見ていたんですか」
見ていない。その読者のことは知らない。
「私の情報を、どこから得たんですか」
「得ていません。私が書いたのは、フィクションです」
「嘘でしょう」
嘘ではない。でも、説明できなかった。
メッセージのやり取りを続けているうちに、気づいた。
この会話が、今書いている話になっている。
私は今、「自分で書いた覚え」という話を書いている。読者から「この話、あなたが書いたんですよね」と言われる話を。
——待ってほしい。
誰かが先に書いたのか。それとも、私が今書いているのか。
因果が逆転している。話が先にあって、現実が後から追いついている。
私は、誰かの書いた話を演じているだけなのか。
背後で、タイプ音が聞こえる。誰かが書いている。この瞬間も。