#0054
知らない下書き
テーマ: 知らない下書き
生成日時: 2026/03/04 00:00
# 知らない下書き
メールアプリを開いた。下書きフォルダに、書いた覚えのないメールがあった。
宛先は「柊」。アドレスは文字化けしていて読めない。
件名は「返信」。でも、元のメールが見当たらない。何への返信なのか。
本文を読んだ。
「お手紙ありがとうございます。お久しぶりです。元気にしていますか。
最近、少し疲れています。仕事が忙しくて。でも、あなたからの連絡があると思うと、頑張れます。
今度、会えたら嬉しいです。いつものカフェで。
また連絡しますね」
私は書いていない。柊という人も知らない。でも、文体は私のものに似ていた。
下にスクロールした。日付の古い下書きが、いくつもあった。全て柊宛て。
「今日、あの映画を見ました。あなたが好きそうだと思って」
「仕事でミスをしました。あなたに話を聞いてほしい」
「誕生日おめでとう。プレゼント、何がいいですか」
長期間にわたる、親しい人へのメールのようだった。
最も古い下書きは、五年前の日付だった。
「初めまして。柊さんですね。お会いできて光栄です」
私は五年前、柊という人と出会った。でも、覚えていない。
下書きの続きを読んでいると、新しいメールが追加された。リアルタイムで。
タイプ音が聞こえた。パソコンから。誰も打っていないのに。
新しい下書きの内容は——
「忘れないで。私はまだここにいます」
送信ボタンを押してみた。「送信できません。宛先が存在しません」
柊は、どこにいるのだろう。