#0037
前の住人の手紙
テーマ: 前の住人の手紙
生成日時: 2026/02/15 00:00
# 前の住人の手紙
新しいアパートに引っ越して一週間。郵便受けに手紙が入っていた。
宛名は、私ではなかった。「柊様」。前の住人だろうか。
差出人を見た。「柊」と書かれていた。同じ名前。自分宛てに自分から?
開封しようかどうか迷った。でも、気になった。そっと封を開けた。
手紙は手書きだった。丁寧な字。インクが所々滲んでいる。
「私へ、
この手紙が届く頃、あなたはもうここにいないでしょう。でも、手紙は届くはずです。なぜなら、私たちは同じだから。
部屋の奥にある押入れを開けないでください。そこには、私たちがいます。見てしまうと、あなたも私たちになります。
逃げてください。でも、逃げられないことも知っています。私も逃げられなかった。
柊より」
意味がわからなかった。でも、押入れが気になった。
開けない方がいい。手紙にそう書いてある。でも——
不動産屋に電話した。「前の住人について教えてもらえますか」
「前の住人、ですか。記録では——」
沈黙があった。「おかしいですね。データが見つかりません」
「見つからない?」
「システムエラーです。『該当者なし』と表示されています」
404。存在しない住人。
「もう一度確認してもらえますか」
「何度確認しても同じです。あの部屋に住んでいた人の記録が、ありません」
電話を切った。手紙を見つめた。
押入れのドアが、かすかに音を立てた。