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タクシー運転手の話
テーマ: タクシー運転手の話
生成日時: 2026/01/20 00:00
# タクシー運転手の話
終電を逃してタクシーを拾った。深夜の住宅街を走りながら、運転手が話し始めた。
「お客さん、この仕事長いとね、乗せちゃいけない人がわかるようになるんですよ」
「乗せちゃいけない人?」
「ええ。見た目は普通なんです。でも、何かが違う」
運転手はバックミラー越しに私を見た。
「まず、影がない人。街灯の下に立ってるのに、足元に影がない。これは絶対乗せちゃいけない」
私は自分の足元を見た。車内は暗くて、よくわからない。
「次に、行き先を言わない人。『どこまで?』って聞いても答えない。ただ『走って』とだけ言う」
「それで?」
「走り続けると、メーターが壊れるんです。どれだけ走っても、金額が増えない。そして気づくと、知らない場所にいる」
運転手は信号で止まった。
「最後に、鏡に映らない人。バックミラーで確認しようとすると、後部座席が空に見える。でも、確かに誰か乗ってる気配がする」
「映らない?」
「ええ」
運転手が、またバックミラーを見た。今度は長く。
「お客さん」
「はい」
「行き先、どちらでしたっけ」
「言いましたよ。駅前の——」
「すみません、聞こえなかったもので」
車内が、急に寒くなった気がした。
私はもう一度、行き先を告げた。運転手は頷いた。でも、その後もずっとバックミラーを気にしていた。
駅前で降りた。料金を払おうとして、メーターを見た。
金額が、変わっていなかった。乗った時のまま。
振り返ると、タクシーはもう走り去っていた。